【ShortStorey】君は僕の一等星

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 ベランダから眺める星空は綺麗だと最近気が付いた。

 普段は空なんて見ないし、考えることも無い。ただ毎日アレやりたいコレやりたいと考えては忘却して、結果よく分からないことをしてみたり、偶然納得のいくモノが出来上がったりする。いつの間にか僕は余裕を失った現代人の内の1人になっていた。
 昔は望遠鏡片手に親を連れまわす事もあったし、1人でプラネタリウムを観に行くこともあった。

・・・・・

「この時期だと…あの星はね、双子座んlカストルとポルックスっぽいね。あとはアレは、すばるも見える。知ってそうなのだと最近リリースされた曲のベテルギウスも見える。あの目立つ星がそうかもしれない。」
「星に詳しいのね。」
「そうだね。」

彼女は驚いた表情をする。

「珍しいね。あなた自身を肯定するなんて。」
「そうかもしれない。」

しばらく僕は彼女の指の示す星の名前を答え続けた。

「信じられない。全部覚えてるの?」
「それは不可能。観測できる星だけだよ。それにもう10年以上前の名称だから、もうこの単語に意味は無いと思うし」
「十分凄いことじゃない…」

 ただ夜空を眺めて時間だけが過ぎれば良いと思ってた。ただ今日は口から出る言葉が軽くなった気がした。

「僕は星が好きだったんだ。誰よりも」

デートの帰りに言うことじゃない気がする。だが彼女は聞く気満々の様子で頷く。

「でも…あーいいや。僕はここから観るだけで十分だと気付いて止めた。
 僕達から観てる星は変わらない。ビックバンを起こしてその場から形を変えたはずなのに僕達はまだ1つの星として観測してる。だから覚える価値はないのかなって」

 彼女には悪ことを言ったと思う。僕の部屋を見ればすぐ分かる事だから。

「宇宙飛行士になりたいって言えばいいじゃん。かっこ悪い。台無しだよホント。少しでも尊敬した私が馬鹿みたいじゃない!」

 彼女は立ち上がると、手を暖める為に買った飲み物を投げて寄越した。

「私、帰る。」
「そっか。送ろうか?」

 彼女は何も答えず駅に向って歩いて行ってしまった。その後すぐ連絡が来て家まで送った。コンビニで待ち合わせた時、少し視線が泳いだ姿は可愛いと思った。

・・・・・

 別に後悔とかしてるわけじゃない。本当に星は観るだけで充分なのだ。それ以上は、僕に収まらない。ただでさえ他の人と接するのが苦手なのだ。宇宙を見る前にもっと向き合わなきゃならない問題の方が多い。
 現実に戻すように鳴るスマホの通知には、彼女の名前が浮かぶ。

「もしもし」
「これから時間ある?」
「空いてる。」
「そっか!さっきチケット貰ってさ2枚あるの一緒に行こ。急いで私の家に来てね」

プチ。スマホの切れる音は夢じゃないかと思う。それも悪い方の…
 現在19時半を過ぎたこの時間に呼び出す彼女は、僕のことをどう思ってるのか? 扱いが乱暴だなと思いながら少し嬉しいとも思ってる自分がいる。

 財布の中を確認してジャケットを着ると車のキーを持って外に出た。

 僕の行き先はきっと宇宙よりも大変なんだろうと思い直して。

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